人生は熟したオレンジのようなものだ。若いときは、果汁を速やかに余さず得ようとして、実を強く、一気に搾る。歳を取ると、ゆっくり搾って、一滴、一滴を味わうようになる。
「フランキー・マシーンの冬」ドン・ウィンズロウ(東江一紀訳) 角川文庫
サンディエゴに暮らすフランク・マシアーノは、“餌屋のフランク”としてみんなに好かれ、リネンレンタル業や賃貸物件管理業など、掛け持ちしている複数の事業もそれなりに好調。生活スタイルは徹底していて、質を重んじ、毎日、毎週の繰り返しを楽しんでいる。しかしある日、そんなフランクの一日のリズムが崩されてしまい、そこから生活全般ががたがたと崩れは始める。かつて伝説の殺し屋、フランキー・マシーンとして知られたフランクの命を、いまになって誰かが狙っているらしい――だが、いったい誰が? なぜ? 自分の命と家族、そして生活を守るため、フランクは己の過去を振り返り、誰が自分の命を狙っているのかをふるい分けようとするが……――
こだわりのある男フランク。その“生活の質(クォリティ・オブ・ライフ)”を描くだけで、なんと80ページほどにもなっている。しかし、質にこだわった平和な日々があったからこそ、そこからのギャップのある出来事が際立つのである。
伝説の殺し屋といわれてはいるが、フランクが思い出す過去の出来事の中で、彼は決して冷酷非情な殺人者というわけではない。むしろまっすぐな生き方をしようとしているように見えるから不思議だ。
サーフィン仲間のFBI捜査官デイブとの関係も見どころ。こだわりのある殺し屋の生き方が、なんともいえない雰囲気を出している。「犬の力」よりは断然読みやすいと思う。オススメ。
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