でも立ちあがって、自分の知ってる人たち、自分を好いている人たちに向かって、どうしてそんなことがいえるだろう?
「向こうはどんなところだい?」(「フェッセンデンの宇宙」所収)エドモンド・ハミルトン 中村融編訳 河出書房新社
「ぼく」、フランク・ハッドンは第二次火星探検隊の一員として、帰着後の入院生活からようやく故郷に戻ろうとしているところだった。目的は火星のウラニウム探査であり、それによって地球全体のために安価な原子力がふんだんに供給できるようになるはずだった。だが、その探検によって失われたものは……あまりにも大きすぎる、何か。亡くなった同僚たちの家族に請われ、ぼくは故郷に帰る前に、彼らの恋人や両親のもとへとむかう。しかし、どうやって説明しよう。どうしたらわかってもらえるだろう。最善の手をつくしたといったって、火星病でただただ死んでいく姿をみまもってやるしかなかったことを。救援など来ないという噂を信じて発狂していき、互いに殺しあってしまった者たちことを。この苦しみは、第二次探検隊ばかりではないはずだ。どうして第一次探検隊は真実を教えてくれなかった? だが、その問いかけの答えは、わかりきったことだった。ぼく自身もまた、真実を告げることができずに、偽りを告げ続けているのだから……
短編集。
極小宇宙を自在に操るフェッセンデンの姿を通して、ひんやりする恐怖感を与える「フェッセンデンの宇宙」や、SF作家の語る、空想の世界がもし実在してしまったら……? という「追放者」の他、早すぎた埋葬もの「帰ってきた男」もあれば、風と暮らす少女や翼をもった少年の物語「風の子供」「翼を持つ男」もあり、非常に幅広いハミルトン作品が楽しめるつくりになっている。編訳者あとがきによれば、やっぱりこれは狙ったもののようで、バラエティに富んでいる分、作品に好き嫌いは出るかもしれないが、逆にいえば、全部読めば好きな作品が一つは見つかる、というつくりになっている。
SF作家として活躍した年代が古いため(2004年で生誕100年だそうですから……)、やや古くさいと感じる人もいるかもしれないが、かえってSFに苦手意識があるけど、ちょっと読んでみようと思っている、という人にはオススメかもしれない。小難しい理屈や物理や数学を知らなくたって、SFは楽しめるということがわかるだろう。
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