どうか、神さま、お願いです。お願いです。こんなことは終わらせてください。終わらせてください。
 終わらせてください。
       
       「ファウジーヤの叫び」 ファウジーヤ・カシンジャ, レイリ・ミラー・バッシャー(大野晶子訳) ヴィレッジブックス

 アフリカ西海岸、トーゴ共和国の裕福な家庭に生まれ育った少女ファウジーヤは、七人兄弟の下から二番目、五人の姉妹の一番下の妹として、父親の一番のお気に入りだった。美しく賢いファウジーヤは、小学校だけではなく、中学に、そして大学への進学までをも期待して成長したが、十五歳のある日、持病のぜん息を悪化させた父が急死して事態は一変する。ファウジーヤの部族の掟では、父に代わって伯父と伯母が彼女に対しての権利を持つ。そして伯父と伯母は、もともと気に入らなかった母を追い出し、ファウジーヤには三十歳も年上の男の四番目の妻になることを強制する。しかもその前には、“カキア”と呼ばれる女性性器切除(FGM)も受けなければならないという。カキアに反対する両親のおかげで、上の姉たちは全員カキアを免れて結婚していったが、このままではファウジーヤにカキアを逃れるすべはない。絶望の中で手を差し伸べてくれた一番上の姉の導きで、ファウジーヤは愛する祖国と家族を捨て、ドイツへ、そしてアメリカへと逃れてゆく。だが、自由の国アメリカでファウジーヤを待っていたのは、恥辱と迫害に満ちた強制収容所での生活だった。
 ノンフィクション。
 ファウジーヤは決して、祖国を嫌い、アメリカに希望を持って亡命を決意したわけではない。愛する祖国ではあるが、カキアと強制結婚から逃れるためには仕方ないことだったのだ。しかし、彼女の入国を審査する判事や、刑務所の看守たちは、アメリカに来ればなんとかなると思ってるんだから……と、ファウジーヤに理解を示すことがない。部族の掟の強制力や、そもそもカキアがどのようなものかも理解していない人々が、ファウジーヤの苦しみをわかるはずもないのだ。そのために、もっとも美しく溌剌とした少女時代を、ファウジーヤは刑務所の中で過ごすことになる。絶望の中、自由になるためならカキアを受け入れ、祖国に帰るしかないと思い詰めるファウジーヤを支えたのは、金銭的に余裕のない中でもファウジーヤのために動いてくれたいとこのラフーフや、のちにファウジーヤグループと呼ばれる女性たちの集団だった。
 ファウジーヤはけっして特別な人間ではない。ヒステリーを起こし、泣きわめき、絶望し、気力を失う。そんな彼女を支え続け、励まし、ついには彼女の自由を勝ち取る人々。ファウジーヤだけではなく、そんな周囲の人たちの勤勉さや前向きな姿もまた、素晴らしいのではないかと思う。
 それにしても、こんなことがいまなお行われているということに愕然とする。FGMだけではなく、アメリカの刑務所の在り方も含めて。人権とか女性の権利とか、そんな難しいことなんて考えなくていい。ただ、いまなおこのようなことが世界のどこかで行われている。それを知るために、読んでもらいたい。



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