彼らは英雄でもなければ狂人でもない。逃れることのできない死をいかに受け入れ、その短い生を意味深いものにしようと悩み苦しんだ人間だ。
                      
  「永遠の0」 百田尚樹 講談社

 司法試験に四年連続で落第し、自分はどうやって生きていっていいのか、そもそも何か目標があったかどうかさえわからなくなってしまった二十六歳の「ぼく」、健太郎は、フリーライターをしている姉の頼みで、祖父、宮部久蔵について調べ始める。そもそも、姉弟にとっては、そのような祖父がいたということさえ六年前に知ったばかりだった。祖母の最初の結婚相手であり、母の父。自分たちが祖父だと思っていた人とは血がつながっていなかったのだといわれたところで、見たこともない遠い存在でしかない。だが、いまになって、母、清子が、そんな自分の父親のことを知りたくなったのだという。
 終戦間際の特攻で死んだという祖父、宮部久蔵。生きていれば八十五歳になる。健太郎と姉の慶子は、当時を知る人々に話を聞こうと動き始めるが、そもそも戦友たちの多くが八十歳を過ぎ、記憶し、話ができる状態にある人さえ少ないことが予想された。だが、思いがけず宮部のことを知る人々が次々に現れる。しかし、語られる祖父の姿は、必ずしも想像していたような勇ましい戦争の英雄ではなかった。ある者は臆病者と罵り、ある者はその天才的な操縦能力を褒めたたえる。さまざまな場面で宮部と関わった人々が語る、ひとりの男の姿。それは、死ぬことが至上とされていた戦地で、妻と娘のために生きて帰ろうとしていた一人の男の姿だった。ではなぜ、そんな彼が特攻で亡くならねばならなかったのか……
 祖母は、そして母は、愛されていたのだろうか? そんな思いから始めた調査だったが、湧き上がってくるひとつの疑問、なぜ特攻で死なねばならなかったのか……それを解き明かすためにも、健太郎と慶子は次々に当時の物語に引き込まれてゆく。長編小説ではあるが、ひとりひとりが語るという形式をとっているため、長い話が苦手という人でも読めると思う。
 号泣必至。電車の中で読んではいけません。



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