「代わりに一つだけ教えてほしい。きみは、どっちかね。運命に従う方かね、それとも運命に逆らう方かね」
              
「DZ」 小笠原慧 角川文庫

 アメリカ、ペンシルベニア州で起こった夫婦殺害事件。五歳の息子は行方不明となった。しかし、調査は次第に様相を変える。家に飾られていた息子ディビッドの写真はすべて、他家の子どものものだったのだ。ディビッドを診察した医師は殺害され、彼を養子斡旋したソーシャルワーカーもまた死体となって発見される。ディビッドはどこに消えたのか、彼をそこまでして抹消したい存在とは何か?
 一方、日本では幼少時に天才的なひらめきを見せながらも、小学校なかばで自閉傾向を見せ、保護室に監禁されている少女がいた。医師の志度涼子は、その少女、沙耶と出会い、彼女の心をひらこうと努める。だが、少女の血液検査の結果は、分子レベルで少女の異常を決定してしまうものだった――
 染色体のロバートソン型転座により、ヒトと生殖的に隔離された存在が、自らの子孫を残すために足掻いたときに生じる悲劇。物語の中には、染色体異常として片付けるにはあまりにも重い存在が多数登場する。遺伝子疾患として片付けてしまうのか、それを進化のひとつの方向としてみるのか。ヒトの中での劣った存在だと思うのではなく、みずからを「ヒトとは違う生き物」であるとしたとき、心に生じるのは、何か。優越感と孤独、絶望のあいだを行ったり来たりする感情。
 医学用語などが多用されているがわかりやすく読みやすく、そしてさりげない伏線がラストで明らかにされたときの驚きと感動。
 なお、「DZ」とは何か……とやるとネタばれになりそうなので、だまっておく。とにかく、読んでもらいたい。SFとしてもミステリーとしてもおもしろく読めると思う。



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