ドラフト１位の重みという言葉を彼は何度か口にした。彼ほどその栄光と悲哀の両方を経験した人間は他にいないであろう。１位のいい面も、悪い面も、賞賛も、揶揄も、である。それでもドラフト１位という十字架を背負って、彼は自らの信じる道を歩み、素晴らしい人生を全うしたともいえるだろう。
　　　　　　　　　 　　　　　　　　　「ドラフト１位：九人の光と影」　澤宮優　　河出書房新社

　ドラフト１位。いうまでもなく、プロ野球の新人獲得選手を決めるドラフト制度において、各球団から１位に指名されることであり、アマチュア選手にとっては栄光の瞬間に違いない。特に、現在とは違って逆指名制度がなかった時代には、選手側に球団を選ぶ権利はなく、さまざまな悲劇を生む要因ともなった。また、希望どおりの球団に入れたとしても、高校（あるいは大学、社会人）時代と同じような戦績が残せるとは限らない。大きな期待を背負って入団した結果、怪我に泣き、新たな道を探らねばならないこともある。
　この本に登場する九人は、それぞれにドラフト１位の誇りと責任を背負い、そのプライドを持って生きてきた男たちである。ある者はマスコットに入り、ある者はスカウトになった。また、期待していた球団からの指名がなかったため、入団を拒否して社会人野球に行った者もいれば、教職に就きたいという思いから、巨人のドラフト１位を蹴った者もいる。
　「それでドラ１か」「ドラ１なのに」。良くも悪くも、彼らの人生にはドラフト１位であるということがずっとついてまわる。ドラフトで１位だったか３位だったかなんて、その後の野球人生の実力勝負では関係ないように見えるが、本人としては気にせざるを得ない部分もある。それはやはり、十字架なのだ。
　二十歳前後で、ドラフト１位という十字架を背負った男たちの栄光と挫折。だが、それは本当に挫折だったのだろうか。彼らの生き方の力強さに、光を見る。



オススメ本リストへ