ともかくこんな風にして僕は今まで七度殺された。あの桜が光と影になって舞い狂っていた道で、落葉に埋めつくされた晩秋のプールで、アパートの一室で、東京駅のホームで、雨の道路で、団地のゴミ棄て場で、渋谷駅近くの路上で。そして今また、僕が住んでいる団地の一室で、僕は八度目に殺されようとしている――
           
  「どこまでも殺されて」 連城三紀彦 新潮文庫

 夏休みが終わり新学期を迎えたある日、国語教師の横田は男子生徒の声で、
「助けて下さい。殺されかかっているんです」という電話を受ける。名前を名乗らないその生徒の必死のメッセージを受けとめるため、横田は作文を書かせてみるが、そこにもまた、左手で書かれたメッセージが紛れていただけだった。
 いったい彼は誰なのか。そして、一人の人間が何度も殺されるなどということが本当にあるのか。クラスメートを助けたい、といって名乗り出てきた数人の生徒たちと協力して、横田は謎の解明に挑む。だが、ときには芝居の下手な横田以上に、生徒たちのほうが謎を一歩も二歩も解明しているのだった。そして、浮かび上がった意外な人物と、その真相とは。
 連城トリック全開。ぜんぶ読んでトリックがぜんぶわかってから読み直すと、さらに納得できる部分があるので、それこそ再読するおもしろさのある作品といっていいだろう。
 横田以上に、この作品では苗場直美という、美人の優等生、でも心の中にはさびしさや孤独を抱えている少女、というのが重要なのだが、こんな生徒、実際にはいないよなー……(笑)。



オススメ本リストへ