「興味ぶかい昔話だ」ソーンダイクは言った。「すぐれた教訓がふくまれている。つまり、注意ぶかく耳をすませば、周囲の生命のないものが、それぞれ何かの歌をうたうのがきこえる、というわけだ」
「歌う白骨」(「ソーンダイク博士の事件簿T」所収)オースチン・フリーマン(大久保康雄訳) 創元推理文庫
燈台守のジェフリーズは、新しい交代員を心待ちにしていた。どんな男だろう? いままで何をやっていたんだろう? だが、そこに現れたブラウンという男は、かつて自分だけ減刑されるためにジェフリーズを裏切ったエイモス・トッドその人だった。昔のいざこざから、いまはブラウンと名乗るトッドを殺害してしまったジェフリーズ。
物語は、法医学者ソーンダイク博士の助手、ジャーヴィス医師の手記から、行方不明者として処理されるところだったブラウンが殺害されたことを、ソーンダイク博士はいかにして看破したのかが語られる。
短編集。
鋭い観察眼をもったソーンダイク博士の推理は、科学捜査といってもよい。顕微鏡でしか見ることのできない微細な証拠を元に犯人を暴く手段は、1912年ごろに発表された作品とは到底思えないほど緻密で科学的である。が、解説によれば、作者フリーマンの功績のひとつは、「歌う骨」に代表されるような倒叙推理小説の生みの親である点だという。犯行の詳細が語られ、それをいかにして探偵が推理していくか。いまとなってはさほど珍しい手法ではないが、これが記念すべき第一作なのだと思うと、また感慨深い。ミステリファン必読の書といって間違いない。オススメ。
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