「理由はどうあれ君は夜にひとりびしょ濡れで、だったらぼくは君の夜に付き合うのみさ。他に何ができるっていうんだ。ぼくには太陽なんて作れやしないんだ」
               
 「でかい月だな」 水森サトリ  集英社文庫

 ぼく、沢村幸彦は、月が大きく綺麗な夜、友人の綾瀬涼平に崖から蹴り落とされた。なんとか一命はとりとめたものの、右足はぐしゃぐしゃで、大好きなバスケができない身体になってしまった。母親と姉は泣き、父親は黙り、同級生たちは、綾瀬のことをいつかなにかやらかしそうだったという……けれど、幸彦は綾瀬に対して怒りを感じることができずにいた。だって、どうして綾瀬は自分を蹴り落とすなんてことを? それがわかるまでは、怒ることさえできやしない。警察の話によれば、綾瀬は幸彦を蹴り落とした後、はっと我に返って助けを呼び、あとははらはらと泣いていたというのだが。
 結局、どこかの施設に送られてしまった綾瀬とは会えぬまま、手術を繰り返して一年が過ぎ、二度目の中学二年生を始めた幸彦は、バスケ仲間のヒカルのテンションの高い明るさに引っ張られる一方で、天才科学少年中川や、同じクラスのいじめられっ子で、なぜか幸彦のことを憎々しげに睨みつけてくるオカルト少女かごめなど、変な連中とも知りあいになる。おそらく、バスケを続けていたら、絶対知りあわなかったような連中と。だけど、それが妙に心地いいのも事実なのだ……
 ふとしたきっかけで、これまでの生き方そのものを強引に変えさせられてしまった主人公。怒ることもできない自分、家族をうっとうしく思ってしまう自分。もやもやしたものを抱えている幸彦にとって、確固たる自分を持っているようにみえる中川の存在は大きい。
 途中からあれよあれよとファンタジックになってしまうのだが、それはさておき面白い作品である。オススメ。



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