「捨ておけばよい」龍は言った。
「それができないんですってば。日程表があって――連中が闘わなきゃならな戦が山ほどあるんです。それに、ほんとにそのままにしといたら、きっと逃げ出して、手当たり次第に人を殺して回る」
「ダークホルムの闇の君」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(浅羽莢子訳) 創元推理文庫
別の世界からやってきた事業家チェズニー氏のせいで、魔法世界ダークホルムは40年というもの苦しめられてきた。毎年送られてくる観光客のために、闇の君や闇の砦、闇エルフなどを作り上げ、巡礼(観光客)がスリルとサスペンスあふれた冒険の旅を無事終えられるよう、ダークホルムが一体となって取り組まねばならないからだ。観光客へ与えるスリルのために、町も畑も荒れ放題。ダークホルムの人々も疲弊しきっていた。この状況を打破するために、緊急事態委員会がとった手段は、お告げに頼ること。しかし、そのお告げは今年の闇の君を魔術師ダークに、巡礼観光団の最終グループの先導魔術師をダークの息子ブレイドに指名せよというものだった。優秀な魔術師ではあるが、やや軌道を外れがちなダークと妻のマーラ、ショーナ、ブレイド、キット、カレット、リダ、ドン、エルダの一男一女五グリフィンの子どもたちが巻き起こすどたばた騒ぎ。頼みもしないのに龍が現れ、エルフもやってくるし、かけたはずの魔法はさっぱりきかず、ダークとマーラの仲もなんだかあやしい様子。倒れてしまったダークの代わりに闇の君として振る舞わなければならない子どもたちは、不安の中で自分たち自身の姿と向かい合ってゆく。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの魅力全開の一作。グリフィンと人間の子どもたちが、互いに兄弟として育っているという設定そのものがまずとてもよい。人間だからできること、グリフィンだからできることがある。自分たちにとっては当たり前なのに、他の人から見ると奇妙だということだってある。喧嘩したり、助けあったりしながら成長していく子どもたちの姿がすがすがしい。龍やエルフ、空飛ぶぶた(ジョーンズってよほど好きなんだろうな、他の作品でも出てきてましたよね)など、魅力的な登場人物(?)たちも山ほど。子どもよりおとなのほうが楽しめるかもしれない作品。オススメです。
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