ぼくたちの国は、世の中のほんのかたすみで、ひっそりと静かな日を送っていた。こんなところに、大きなひみつがかくされていることなど、だれも気がついていなかった。
「だれも知らない小さな国」佐藤さとる 講談社
小学生のとき、偶然にもすてきな小山を発見した「ぼく」は、「この山はぼくの山だぞ!」と思わず叫んでしまう。世の中からはみだしてしまったように静かなその山は、昔から「こぼしさま」が住んでいる不思議な山だといわれていた。そしてある日、ぼくはほんものの「こぼしさま」を目にする……。
幼いころのこぼしさまとの出会いなど忘れていたぼくが、大人になってからふたたび小山にやってきて、こぼしさまを思い出す。妖精や小人は大人になってからは出会えないものがほとんどだ。けれど、この話はそうではない。「せいたかさん」と呼ばれるぼくと、コロボックル(こぼしさま)たちとのやりとりには胸痛むほどにやさしいものがある。コロボックルに好かれたいと願うせいたかさんと、せいたかさんを信じたいと願うコロボックルたち。彼らがともに力を合わせて小山を自分たちのものにしていく過程もまたすばらしい。
あとがきには、このようなことが書いてある。
「人は、だれでも心の中に、その人だけの世界を持っています。その世界は、他人が外からのぞいたくらいでは、もちろんわかりません。それは、その人だけのものだからです。そういう自分だけの世界を、正しく、明るく、しんぼうづよく育てていくことのとうとさを、わたしは書いてみたかったのです」
大きなひみつをかかえた、ひっそりと静かな場所。この本を読み、せいたかさんのひみつの世界に足を踏み入れることを許されたことを、感謝する。
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