「けれど思い違いをしてはいけないよ、ラリー。われわれはきみを恐れているのだ。きみは自分で気がついていないのだよ、自分がどれほど危険な存在になりうるかを」
              
「はるかなる地球帝国」 マリオン・ジマー・ブラッドリー(阿部敏子・内田昌之訳) 創元推理文庫   ダーコーヴァ年代記2

 父ウェイド・モントレーの転属にともなって、恒星カタログに名前が載っているだけのような辺境惑星ダーコーヴァへとやってきた地球人の少年、ラリー・モントレー。彼のあくなき好奇心が、ダーコーヴァ語の習得や街の探索へとつながり、そしてラリーはそこでコミンと呼ばれる貴族の少年、ケナード・オルトンと出会う。ダーコーヴァ人には滅多にいない赤毛の少年ケナードは、ラリーと同い年でありながら都市警備隊の仕事を持ち、貴族としての誇り高く生きている。そんな彼に対し、法で守られ、学校に通う身である自分。だがラリーはケナードをはじめとするダーコーヴァの人々と知り合ううちに、彼らに欠けているもの、地球人に欠けているもの、そして互いに補えあえるのではないかというものを感じてゆく――
 ラリー・モントレーという少年の目を通して見た、ダーコーヴァ異文化体験。ということで、キルリ、トレイルマン、バンシー、チエリといった非・人類や奇妙な動物たち、空の雲を呼び集めて雨を降らせるレロニス、現人神ハスター卿などがいきいきと描かれている。ラリーが、カメラを珍しがる一方でテレパスのことをあっさりと語るケナードに驚けば、自分の名前がようやく書けるだけのケナードが、二ヶ国語を読み書きできるラリーに驚く。科学的な知識を持たないケナードと、山岳の知識を持たないラリーが、互いに意地を張り、ときに罵りあい喧嘩しながらも助けあって旅をする場面は秀逸。ふたつの文化がついにひとつの方向性を見つけた瞬間でもある。
 こののち、ラリーはダーコーヴァ風にレリスと名を変えてダーコーヴァにとどまることを選び、ケナードはラリーの代わりに地球帝国へと旅立つ。そこで出会ったラリーの妹とケナードが結ばれて生まれたのが、後に重要な登場人物となってくるルー・オルトンであるが、これはまた別のお話。



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