「それにしてもなんか、まるであれですね。こうしてると、家族みたいですよね」
           
 「カラスの親指」道尾秀介  講談社文庫

 詐欺を生業にして活きる武沢竹夫は、数ヶ月前から組んでいるテツさんとともに、些細な詐欺を繰り返しながら稼いでいた。ふたりはともにヤミ金業者に苦しめられ、家族を失った過去を持っていた。しかも武沢にはいまなお追いかけてくる暗闇もある。そんな過去のひとつに放火され、ほうほうのていで逃げ出したふたりだったが、ひょんなことからひとりの少女を拾ったことをきかっけにして同居人が増え、いつしか五人と一匹が肩を寄せ合って暮らすようになっていく。だがそれは、単なる寄せ集めの集団ではなかった。少女と武沢には、やはり過去からの暗い因縁が絡みついていたのだ。
 詐欺師集団が企てる小さな詐欺、そして大きな詐欺。人生の大逆転を狙って企てた試みの顛末とは?
 物語中に出てくる詐欺は、物語中の登場人物ばかりではなく、読み手のこちらをも騙すような仕掛けになっていて、読み始めた最初から、あれよあれよと心地よく騙されていく驚きがある。どんでん返しに次ぐどんでん返し。
 最後まで読んで、もう一度、読み直したくなる作品。騙されていることがわかってもなお楽しめるという意味では、「詐欺」ではなく「マジック」を見ている感覚なのかもしれない。
 人生の敗者たちが飛ぶ日は来るのか? オススメ。




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