「ママやダディは、まだわたしが約束どおり帰ってくると思ってる。愛している人を、みんな、わたし傷つけてしまうのね。そんなことしたくないのに――思ってもいなかったのに」
「冷たい方程式」 トム・ゴドウィン(伊藤典夫訳) ハヤカワ文庫
辺境惑星に血清を届に行くための緊急発進艇。ただひとり分の燃料だけを積み、六人の人々を救うために飛び立ったその船に密航者が。燃料を保持し、目的地に着くためには、密航者を発見と同時に直ちに艇外に遺棄するしか方法はない。しかし、その密航者はまだ幼いといっていい若い娘だった。悪気のかけらもなく、ただ兄に会いたいがために乗り込んでしまった彼女。彼女の罪は無知だったことだ。「許可あるもの以外、立入禁止!」その表示を、軽く受けとめてしまったことだ。自らが死なねばならぬことも知らず、ほほ笑んで泊めてもらうかわりに仕事をしようなどという青い眼をした娘を……パイロットは、遺棄することができるのか。彼女を知る者にとって、彼女は愛くるしい十代の娘である。けれど、自然の法則にとっては、彼女は、冷たい方程式の中の余分な因数にすぎないのだ。選ぶ道は、ただひとつしかない。
SFの古典的名作のひとつ(考えたら、古典的名作って他にはなにがあるんだろう…)。とりあえず、SFファンなら知らない人もない「冷たい方程式」。哀しみの中で自分が死なねばならないことを受け入れ、認め、最期に生と死について語る少女の言葉は美しく切ない。内容だけ知っていて読んだことのない人がいたら、ぜひ一読してほしい作品である。
これはアンソロジーになっていて、アシモフ「信念」やシェクリイ「操作規則」などもあるが、ベスターの「祈り」も可愛い。
小学校5年生、スチュアート・ビュキャナンの作文に目をつけた大人たちが彼を探しまわる。なにせ、作文に書かれたスチュアートの友だちは、雨の日にも星を眺めようと破砕光線を発明し、嫌いな野菜をケーキに変換するために物質変換装置を作り、模型飛行機のためにロボットを作る。そして、怠け者のエセルは歩くのがいやで遠隔移動をしているのだ。作文はすべて嘘なのか、それとも本当なのか? 必死になってスチュアートを探す大人たち。
楽しめる作品集である(って、いま手に入るのかしらん?)。
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