「陽気で明るい人間が、必ずしも恨みを受けんとはかぎりませんからなあ」
             
   「鳥人計画」 東野圭吾  角川文庫

 日本スキージャンプ界で「鳥人」として名をはせたエース、楡井が毒殺された。その状況から考えて、楡井が知らずに毒を飲んだとしか考えられないのだが、では、どうやって、誰が。そもそも、楡井は多少、考えの浅はかなところはあるが、明るく単純で、恨みをかうような人間ではない。誰かが嘘をついているのか。
 捜査が停滞する中、楡井とは別のスキー部に所属する若き新鋭、杉江翔が飛躍的な成長をみせる。これまでからは考えられないほどの飛距離、楡井とまったく同じ姿勢。翔の成長ぶりの中に、殺人事件との関連はあるのか。合宿所で楡井と一緒だったスキー部の面々、警察、それぞれが事件を追う中、思いがけない人物を犯人だと名指しする密告状が警察に届く。
 実は、犯人はけっこうあっさりわかる(だからといって、裏表紙に犯人の名前を記しちゃうのはどうかと思うぞ、角川文庫)。というわけで、物語は、犯人がなぜ自分の犯行がばれたのだろう……と推理する部分と、警察が推理する部分、そして、楡井殺害犯に対する推理とは別に、なぜ杉江翔が飛躍的に成長したのかを推理する部分、というのが混ざりあって構成されている。そして実は、重点を置かれているのは、杉江翔の成長という部分なのかもしれないのである。
 スキージャンプといえば……滑って、飛ぶ。恐怖心さえ克服できれば、ただそれだけといってもいいような競技だが、実はとんでもなく奥が深いということを、この本が教えてくれる。冬季競技の最中に読むと、もっとおもしろかったかもしれない。




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