「元気をだすんだ、甥っ子よ。おまえにはたくさんとりえがあるんだ。おれたちの世界は死んでいる。墓石の灰色ずくめだ。人生はいちばん少なく生きる者にとって最高なんだ。すくないほど値打ちがあるんだ、すくないほど!」
「塵よりよみがえり」レイ・ブラッドベリ(中村融訳) 河出文庫
小高い丘にたつ一軒の屋敷。そこには麗しき者……紀元前のエジプト時代のミイラである、ひいが千回つくおばあちゃん、眠りながら心を自由に飛ばすセシー、鏡に映らないなみはずれて背の高い夫婦。そして、ただひとりの人間であるティモシー。一族の集会にはさまざまな者たちがやってくるが、その誰とも、ティモシーは異なっているのだ。限りある命と、夜よりも昼を好むティモシーは。だが、疎外感を感じるティモシーに、翼のあるアイナーおじさんは慰めの言葉をかけ、そして言う。「おれたちの世界は死んでいる」と。事実、世界は移り変わり始めていた。闇の中に住む者、霧のような者たちのことを信じない心が増えたことで。闇を恐れず、立ち向かおうとする者が増えたことで。そして……
ここに収められている物語のうち、いくつかはかつて目にしたことがあるかもしれない。一族が集まってくる集会、姿をもたないセシーの恋、翼のあるアイナーおじさんの結婚生活。それもそのはず、これはこれまで書かれた短編と、その後書き下ろされた短編を見事に組み合わせてひとつの大きな物語にしたものだからだ。
死なない人々の中で、ただひとり、限りある命を生きるティモシー。闇のすぐ傍らで成長しながら彼が感じた生と死。一族滅亡の危機を迎えたとき、ティモシーが選択した道とは?
ブラッドベリらしい抒情と闇の物語。ブラッドベリを読んだことのない人も、読んだことのある人にもオススメ。
(解説で恩田陸も書いているのだが、萩尾望都のイメージなんですよねえ……ブラッドベリ。「集会」とかは実際に漫画化されているからかもしれませんが……それでも。ということで、これを読んだ方はぜひ萩尾望都の漫画もどうぞ)
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