「……最悪の場合――日本列島の大部分は、海面下に沈む……」
「日本沈没」小松左京 小学館文庫
海底開発KKの所有する潜水艇"わだつみ"の漕艇者である小野寺は、伊豆・鳥島の東北東で一夜にして島が沈むという現象についての調査を依頼された。わずか二日間の間に百六十メートルも沈下してしまった海底。地球物理学の権威である田所とともに小野寺が目撃した日本海溝の異変は、「何か」が起こりつつあることをひしひしと感じされるものだった。だがいったい「何」が……?
頻発する地震、噴火。田所自身でさえ当初は「妄想」かもしれないと言わしめた巨大な異変。だが、それが妄想でないことは、小野寺をはじめとする自然に近い者たちにはわかっていた。――日本沈没。ひとつの国がなくなろうとしているときに、守れるものはあるのか。政府をも引きこんだ極秘プロジェクトが始まるが、そんな折、関東地方を未曾有の大地震が襲い、東京が壊滅状態となってしまう。想像以上に短い残された時間、その間にいったい何ができるだろう? 自分自身だけではなく、否、自分自身以上に日本人そのものの生き残りをかけた男たちの闘いが本格化する。
積み上げられたデータや仮説が、もしや……と思わせるほどにリアルなので、ハードSFとしても楽しめる一方で、沈みゆく日本というあり得ない状況の中での人間ドラマも見どころ。田所博士の変人ぶりと、その根底にある「日本」への深い愛情、積み重なる誤解の中でも、博士への信頼を失わない男たちの「自然」な姿。
沈みゆく日本、喪われゆく日本人魂への愛情が切々と伝わってくる。
1974年度星雲賞受賞。
(ちなみに同年度の星雲賞短編部門は筒井康隆の「日本以外全部沈没」。……こんな感動作からよくあんな怪作が書けたよなあ……さすが筒井。なお、小松左京&谷甲州の「日本沈没第二部」も2007年度星雲賞に輝いている)。
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