「だって、そうだろう? ぼくらはできるだけ早くだんなさまをさがさなきゃならないんだからね」
これは議論するまでもない事実だったので、ラジオも卓上スタンドもあっさり賛成し、一行は旅をつづけました。
「いさましいちびのトースター」 トーマス・M・ディッシュ(浅倉久志訳) ハヤカワ文庫
老いたエアコンが死んでからは、夏別荘に取り残されたのは五台の電気器具。年上で堅実な掃除機と、白いプラスチックの目ざましラジオ、明るい黄色の電気毛布、首の自由に曲がる卓上スタンド。そして、ピカピカの小さいトースター。他の四台はだんなさまと一緒に都会から越してきたけれど、トースターはこの夏別荘しか知らないので、都会の生活に興味しんしん。けれど、五台の電気器具たちの不安は、だんなさまがもう二年も(時計も兼ねているラジオによれば、二年と、五ヶ月と、十三日)お留守にしているということ。だんなさまがわれわれにつれない仕打ちをなさるはずがない。きっとだんなさまの身になにかが起こったのだ――事故だとか、急病だとか。そう思って、気長にかまえようとしていた五台だが、ついに、二年と、十ヶ月と、三日目。だんなさまをさがしに行くことを決意する。椅子にキャスターとバッテリーをつけて、掃除機がそれをひっぱっていくのだ。
野を越え山越え、晴れの日も雨の日も。せっせせっせとだんなさまのもとを目指す電気器具たちの小さい大冒険。ささやかなんだけど彼らにとってはとてもとても重要で、そういうところが愛らしくてたまらない。人間の前では決して動かないけれど、さびしい電気器具は電話を使って他の電気器具とおしゃべりしてる・・・・・・なんて、かわいいと思いません? テレビで仕入れた知識をもとに、犬だってご主人のところに帰ったんだから、電気器具にできないことないよ! なんて。
誰にでもオススメできる、ステキなお話。ローカス賞、イギリスSF協会賞受賞作。
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