「誰だって、悲しい気持ちになることはあるんだよ」
佐伯先生が静かな口調でいった。
「そして、そういうときほど、たくさんの声に耳を傾けられるものなんだ」
「ボクシング・デイ」樫崎茜 講談社文庫
小学校四年生の栞は、「ち」と「き」の発音がうまくできないために、決まった曜日の決まった時間になると、「ことばの教室」に通っていた。そこでは、生徒に大人気の「おじいちゃん先生」の佐伯先生がいて、栞に発音だけではなく、いろいろなことを教えてくれた。話すことがうまくできないから、ゆっくり考えて、みんなが気がつかないようなところにも目をむける。そんな栞にとって、いまいちばん気になっているのは、校門のそばに立つセコイアの木が伐採されてしまうかもしれないということ。だから栞は、毎朝少しだけ早起きをして、セコイアと向かいあうことにした……――
校庭の掃除や、ベルマーク集め、運動会。ごくふつうの小学生の日常を描いたものだし、なんでも大げさな話にしたがる敦志くんや、お姉さんぽい恵美ちゃん、ベルマークを一生懸命集める千晶くんなど、登場人物にも特別にすごい子がいるわけではない。でも、だからこそいっそう、ひとつひとつのことに驚いたり、感心したりする栞たちの生活がかがやいている。自分で考え、自分で行動する、その価値を知っていく日々こそが、かけがえのない贈り物。
小学校のころってこうだったなあ、と懐かしい気持ちで読める人もいるかも。