「別につもりがなくたって、顔には人の内側にある気持ちが表れるんだよ」
「でも、どうして本人が感じていない気持ちが表れるわけ? だって、本当に何も考えてないんだよ!」
             
    「僕の妻はエイリアン」 泉流星 新潮社

 副題は「『高機能自閉症』との不思議な結婚生活」である。
 妻は言語能力が非常に高く、努力によってそれなりのコミュニケーション能力も身につけていたため、「すいぶん風変わりな人」「何だか非常識な人」という程度にしか思われていなかった。だから、夫は結婚して一緒に暮らしはじめるまで、妻がどんなに自分とは違う人かということをわかっていなかったのだ。
 人の表情を読むことができないため、とんちんかんなことを真顔で受け答えして相手にむっとされたり、雰囲気を読むことができないので夫の上司だろうがなんだろうがタメ口で平気でしゃべってしまったり、臨機応変な対応ができないのでスケジュールどおりに行かないといらいらと怒りはじめたり……妻のキテレツな反応や非常識な行動、噛み合わない話がどうしても理解できず、夫のほうまでイライラして、ケンカをすることも多かった。そんな日常への不安から、妻がアルコール中毒になってしまっても、夫はそれがどんなにひどいことなのかを理解できない。これは、そんなふたりが結婚生活を立て直すまでの話と、現在の生活の不思議を記したものである。
 高機能自閉症と診断されないまでも、多少とも妻のような人はいるんじゃないかと思うのだが、そういう相手と一緒に暮らす夫というのは大変である。寛容であろうとして我慢を続けるのだが、ときどきはぶち切れて、夫のほうが家を出てしまったりすることもある。でもそれが、きっとエイリアンとつきあうひとつの手なんだろう。あまり無理しない、ということが。夫婦という関係だけでなく、人間関係全般に置き換えることもできるんじゃないかと思いながら読んでいた。人はだれでも相手にとってはエイリアンなのかもしれない。完全にわかりあうことは無理だけど、わかりあおうと努力することはできるんだろうし、できないときにはいったん逃げて、しばらく距離をおいてからまたはじめることだってできる。わからないからといって逃げたままにしてしまえば、ずっとわからないままのことだってある。それは非常に残念なことだ。
 衝撃的な「あとがき」は、ぜったい最後まで読んではいけません。



オススメ本リストへ