妾の身の上やこ聞いたら、きょうてえきょうてえ夢を見りゃあせんじゃろか。
                 
「ぼっけえ、きょうてえ」 岩井志麻子

 女郎屋の一夜。怖い夢を見る……という客に、女郎が語る身の上話。貧しい岡山の北部で、村八分にされていた女が語る身の上話。人間扱いされず、自ら、己のことを牛、馬以下だと語る女の話は、少しずつ細かいエピソードが連なって、最後にあっと驚くオチを見せる。
 短編集。
 「ぼっけえ、きょうてえ」は、日本の怪談のセオリーどおりというか、「ホラー」ではなく「怪談」であるところにおもしろみがある。薄暗い部屋の、染みのついた天井、擦り切れた畳、湿った薄い蒲団。そこで低くかすれた声で語る女の声想像しながら読み進めると、しんしんと怖くなってくる。
 「密告函」の怖さもまた格別だ。気の弱い公務員が直面する人間の悪意と憎悪。最初、幻覚のようなものが出てきたときにはそれほどでもなかったのだが、ぐんぐん現実的になってきて、こういう話ってほんとうにありそう、と思わせるところが怖い。
 最近はちょっと作風も変わっているようですが、この本はいい。と思う。
 夜中にラジオとかでこの話が流れてきたら……眠れなくなるかもしれない。


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