ジニーのおかげで、おれみたいな人間が生きていることにもちゃんと意味があるんだ、という実感が持てた。アームピットは生まれて初めて自分を尊敬し、思いやってくれる人間に出会えたのだ。
「歩く」ルイス・サッカー(金原瑞人・西田登訳) 講談社
グリーン・レイク・キャンプから戻ってきたアームピット(脇の下)は、更生施設のカウンセラーにいわれたとおり、小さな一歩を根気よく積み重ねていこうとしていた。高校を卒業すること。仕事を見つけること。貯金をすること。けんかになりそうなことはしないこと。アームピットというあだ名とおさらばすること。そのとおりの生き方をするため、高校の夏期補習に通い、経済学やスピーチの授業を受け、グリーン・レイク・キャンプで得た穴掘りの技術をいかした造園業のアルバイトをしているアームピット。だが、そんな彼を信じきれずに尿検査を強要する両親、彼のことを遠巻きにするクラスメート。アームピットが唯一心を許せるのは、となりに住む脳性麻痺の少女ジニーだけ。ジニーと一緒に散歩をし、ジニーと話すことで、アームピットはようやく本来の自分らしい真面目な生き方を取り戻せるような気がしていたのだ。しかし、そんな彼のもとにかつてのグリーン・レイク仲間、X・レイが現れる。人気のロック歌手カイラ・デレオンのコンサートチケットをプレミアつきで売りさばいてひと儲けしようというのだ。最初はしぶるアームピットだが、ずるずるX・レイのダフ屋稼業につきあわされることになってしまう。
小さな一歩が大切だ、と思いながらも、それとは違うことをしてしまうアームピット。巻き込まれ型の主人公によるはらはらどきどきの展開はさすがルイス・サッカー。しかも、脳性麻痺の少女ジニーとアームピットとの関係がとてもよい。最初に出てきたアームピットの5つの課題が、最後にどのように変化したかを比べてみるのも一興。「穴」仲間のその後。
オススメ本リストへ