だれにでも終わりはある。そう、一度死んでしまったら、その後はもう死ぬことはない。死ぬのが怖いと思いつづけなくてすむ。
        
   「嵐の季節に:思春期病棟の十六歳」ヤーナ・フライ(オスターグレン晴子訳) 徳間書店

 十六歳のノラには怖いことがあった。死ぬこと。元気だった叔父さんが、ある日急に弱って死んでしまった。脳の奥に腫瘍があって……もしかしたら、自分の脳の中にも、腫瘍があるんじゃないかしら? それに、レアのことがある。一歳もならずに死んだ姉。レアの死んだ日と、ノラが生まれた日がとても近いこともいやだった。人はいつか死んでしまう。それが怖くて怖くてたまらない。その思いは、ノラに決まり切った儀式をこなさないと外に出られなくしたり、友人ヴェレーナや、ボーイフレンドのヤーコプとの関係までぎくしゃくしたものとしてしまう。そしてある日、ノラは一度死んでしまったらもう死ぬことはないからと、自殺を図った。
 あやういところを助けられたノラは、思春期精神病棟で過ごしはじめる。そこには摂食障害を持っていたり、戦争で両親を失って傷ついたりしている少女たちがいた。ノラはそこで、先生や療法士に話をし、自分の不安を語ることのできる友人を得て、少しずつ回復してゆく――
 実在の少女への取材をもとにした物語。ドイツにはこのように、思春期に不安を抱いた少年少女たちの思春期外来、思春期病棟が複数あり、充実したバックアップが行われているということである。ノラも最初こそ、自分がいるのは精神病院なのかとパニックになるが、思春期の不安定な感情をよく知り、あたたかく見守ってくれる医師や療法士たちとともに過ごしたことは、今後のノラの生活には決してマイナスにならず、むしろプラスになることは間違いない。訳者があとがきで書いているように、日本にこのような支援施設が少ないことは残念だとも思う。同じような悩みを抱えている十代にこそ読んでもらいたい一冊。




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