「あたしたちでこの子の面倒をみてあげなきゃ」
            
 「あの日、少女たちは赤ん坊を殺した」 ローラ・リップマン(吉澤康子訳) 早川書房

 アリスとロニーは、ロニーのせいでマディのパーティから追い出された。ロニーはいつだって問題児で、アリス以外には友だちもいない。アリスはロニー以外の友人もいるし、パーティでマディのママを殴ったりもしていないのに……一緒に追い出されてしまった。灼熱の太陽の下、水着姿でとぼとぼ歩いていた5年生の少女ふたりは、そこで、置きっぱなしになっている乳母車を発見した。
そして――そこから彼女たちの記憶は曖昧になる。だが、彼女たちはふたりとも、オリヴィア・バーンズ殺害の罪で少年刑務所へと入った。オリヴィアの母、シンシアが著名な判事の娘だったせいで、11歳の少女に対するものとは思えない長い刑、7年という刑期を与えられて。
 そして7年後、彼女たちは戻ってきた。そして、ふたりの身辺で頻繁に起こる幼児連れ去り未遂事件。7年前、彼女たちはいったいオリヴィアになにをしたのか? いま、誰が、なんの目的で幼児を誘拐しているのか。
 取り立てて大きな事件が起きるわけではない。というより、オリヴィア殺害事件が7年前の遠く曖昧な記憶として扱われているため、物語のほとんどは、出所後のアリスとロニーの生活、彼女たちの出所を知って新たな憎しみに苦しむシンシアを描くことに費やされるからだ。現在の幼児連れ去り事件に割かれる枚数もそう多くはない。だが、それらが少しずつ積み重なっていき、最後に真実が明らかになったとき、残るのはなんともいえないざらざらとした感情だ。繰り返される「公平」という言葉。ロニーとアリス、どうしたらふたりが「公平」に扱われたといえるのか。誰がどれだけ悪いのか――登場人物たちの複雑さが、最後の最後に、わっとあふれ出てくる感じ。それがなんともいえず、不気味である。
 アンソニー賞、バリー賞の最優秀長篇賞受賞。



オススメ本リストへ