「どうしてあの家の人たちは、いつもあんなに幸福そうにしていられるのかしら」
           「暗鬼」  乃南アサ  角川文庫

 両親に祖父母、曾祖母に妹弟が同居する志藤家に嫁いできた法子。家族は皆やさしく、いつもにこにこと微笑み、法子のことを誉めそやし、可愛がってくれる。やさしくてハンサムな夫、理想的な家族――だが、近くで起きたガス爆発事故をきっかけに、法子は家族の裏に潜むものを感じ始める。この人たちはいったい? 笑顔の裏にあるのはなんなのだろう。そして密かに調べはじめた法子が見たものは。
 怖い。
 漠然と、もしや? と思われる伏線はあるのだが、そこにたどり着くまでが怖いし、世の中には確かに「いい人すぎる」人たちに対する不信感とか、恐怖に似たものとかがあると思うのである。そういうところをうまく突かれる、というそういう感じ。しかも1対8で逃れようがない、という恐怖は並大抵ではない。自分が口にするすべてが否定され、誰も信じてくれない。なにせ相手は全員ぐるなのだ。
 しかも疑心にとらわれた法子が見た「暗鬼」の正体。そして思いがけない結末。結婚まじかの人は読まないほうがいいと思う(笑)。



オススメ本リストへ