ずっと姉が欲しかった。姉を飼うのが夢だった。
               
「姉飼」 遠藤徹 (角川書店)

 脂祭りの夜、出店で串刺しにされてぎゃあぎゃあ泣き喚いていた姉ら。そして、同級生芳美に誘われて、芳美の叔父の家に飼われているという姉を覗きに行ったその日に見たものとは。そして長じて後、姉に取りつかれた彼はついに自分の「姉」を手に入れる……―

土着の風習を色濃く残した小さな村での、子どものころの思い出。猥雑な感じがする夜店の雰囲気や祭りの様相など、筆致は確かで気持ち悪いような美しさがある。もちろん「妹」などでは決してなく、それでいて「母」ではないところにも何らかの意味合いがあるに違いないとは思うのだが。
短編集。作品はほかに「キューブガールズ」(お湯をかけて理想の女の子を作り出すが賞味期限は短い)、「ジャングル・ジム」(恋をするジャングル・ジム)「妹の島」などがあるのだが、どれもある意味では破綻しており、その壊れ方の見事さゆえに読後感が非常に悪い(笑)。
じゃあオススメするなよと思われそうだ。でも実はこれを読んでいて、もしかして川上弘美と似ているんじゃないかと思ったのである(反論が大量にきそうだが)。世界の壊れ方、不条理な出来事の発生と、登場人物たちがそれを受けとめるありかた。特に「ジャングル・ジム」なんて、直線と直角で出来ていて云々、という描写があったにもかかわらず、レストランに行って食事をし、女性とベッドインまでしてしまう。この不条理。じゃあ不条理小説はみんな川上弘美かといわれると困るのだが、彼女の小説の底に流れているある種の不気味さを拡大するとこういう話になるのかなあ、とか……思ったので、あえて書いてみた。同意、反論がちょっと聞いてみたい。



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