「君は、彼らの物語に飛び入り参加している」
「アヒルと鴨のコインロッカー」 伊坂幸太郎 東京創元社
大学進学と同時に一人暮らしを始めることになった「僕」が引越してきて始めて会ったのは猫、そしてカワサキ(河崎)と名乗るひとりの青年だった。なれなれしい口をきくこの男に引きずられ、僕はいつのまにか書店強盗の仲間入りをさせられることになってしまう。同じアパートに住む外人のために広辞苑を奪ってきてプレゼントしたいのだという破天荒な説得に応じるつもりなどさらさらなかったというのに。
物語は同時に2年前の「わたし」の視点からも語られる。ペットショップに勤める琴美は、ある日、思いもかけない成り行きから、当時世間を騒がせていたペット殺しの犯人たちとかかわってしまう。彼らに付け狙われ、嫌な予感を抱く琴美を見守る恋人のドルジと、元恋人の河崎。わたしにとって河崎は女たらしの嫌な男だというのに、河崎とドルジは意気投合し、3人はなんだかんだとしょっちゅう顔を合わせることになる。
現在の僕が知っていることは、河崎がここに住んでいるということ、どこか小さな国から来た青年が、恋人と別れて落ち込んでいるということ。2年のあいだに、いったいどういうことが起きたのか?
僕は、途中でこんなことを思う。
「僕はいかにも自分が主人公であるような気分で生きているけれど、よく考えてみれば、他人の人生の中では脇役に過ぎない。そんなことに、今さらながらに気がついた」
そして、それを肯定することを、他の人からもいわれてしまう。僕はいつのまにか、河崎、ドルジ、琴美の3人の物語に巻き込まれていたのだ。
かなりわかりやすいミスリードなので、わかる人には途中から「あれ?」って思う部分があると思うのだが(実はわたしはかなり違和感を感じながら読んでいたので、最後になって「ああ、なるほどね」と納得)、それでも、なんともいえないノスタルジックな雰囲気がよい。タイトルの意味は最後まで読めば、わかる。
ところで、ソウヤーを好きな人は楽しめると思います、この作品。「どうして」という理由をいうとネタバレになる部分もあるのであまり多くは語れませんが……ソウヤー好きは、ぜひ。
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