「いまの人生は最高だと思っている。でも手術を受けるのが素晴らしいのは、目が見えるのはどういうことなのかを知るチャンスが手に入ることだ。こんなにおもしろい経験はほかにないと思うんだ」
       
     「46年目の光:視力を取り戻した男の奇跡の人生」 ロバート・カーソン(池村千秋訳) NTT出版

 マイク・メイは不慮の事故で三歳のときに失明。しかし、息子に挑戦すること、冒険する勇気を持たせたいという母、オリジーンの教育方針もあって、目が見えなくてもつねに駆け回り、自転車に乗り、怪我だらけになりながらも生活そのものを楽しむ生き方をして育ってきた。長じて後もその冒険心は失われず、障害者スキーの世界選手権で三つの金メダルを持ち、企業家としてもつねに挑戦を続けてきた。マイク・メイにとって、目が見えないことは不自由なことなどではなく、単に自分の個性のひとつにすぎなかった。
 そんな彼に、ある日、手術をすれば目が見えるようになるかもしれないとの情報がもたらされる。医療技術が進歩し、かつては不可能だったことが可能になったというのだ。しかしそれには、飲み続ける薬のせいで癌が発症するかもしれないことや、手術が失敗すれば、いまぼんやりと感じている光さえもが感じられなくなるかもしれないというリスクも伴う。しかも、それだけではない。そのときのマイク・メイは知らなかったが、まったく目が見えない人間が視力を取り戻したとき、そこに見えるものは、他の人間には計り知れない、奇妙な世界だったのだ。
 三歳で失明し、四十六歳で「見る」ことを選択し、そして見えるようになった男の数奇な運命。「火星の人類学者」にもあったように、「見る」というのは、実は不思議な体験なのだ。ほかの人間にはあたりまえのような錯視を使ったトリックも、マイク・メイには通じない。人の性別や、物の形を見分けることも困難だ。そのようなことから、実は、目が見えるようになった人の中には鬱になってしまう人も多いという。だが、これまでの人生すべてを冒険と挑戦の心で生きてきたマイク・メイが、こんなことでくじけるはずがない。
 目が見えなくても、そして見えるようになってからも、つねに挑戦し続けるマイク・メイ。その前向きな姿勢には、圧倒されることばかり。挑戦する心、自分を信じる心を持てば、無限の可能性が開けてくる。脳と人生の不思議を教えてくれる一冊。オススメ。



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