"The future happiness of the human race depends on good people who want to live at peace with their neighbors, and who are willing to protect their neighbors from those who don't want peace."

                
 Shadow Puppets          Orson Scott Card

 The Saga of Ender's Earthの三作目。もちろん、Bean, Petra, Peter, そしてもちろんAchillesの物語。
 前作でHegemonとなったPeterだが、今回、彼はBeanの忠告を聞き入れず、AchillesをHegemonyに呼び寄せるというミスを犯してしまう。BeanとPetraはそんな彼の元を去り、殺人者であるAchillesから身を隠しながら生活する一方、何年、何ヶ月生きられるかわからないBeanのために子どもを産みたいというPetraの主張で、Professor Antonに、そしてVolescuに会いに行く。今回、物語の一方の軸は、このふたりが愛情を深めていくラブストーリーだといってもいいかもしれない。人間ではない自分は子どもなど残さないのだ、というBeanを説得するPetra。いつか生まれてくる子どもたちのために父親の話をしたいから、とBeanとともに、彼が幼年期を過ごした街を歩くPetra。彼らふたりの愛情は最初はぎこちなく、どちらかといえばPetraの一方的な感情表明だったが、ついには、このような会話を交わすまでになってゆく。
"I'm never more than pretty sure of anything"
"Except that I love you."
"Except that we love each other."

 だがもちろん、この話が、このようなふたりの恋物語だけのはずはない。
 彼以外の者たちの予想どおり、PeterはAchillesのコントロールを失い、ついには自らHegemonyを出ることになってしまう。果たして彼はAchillesから力を取り戻すことができるのか。世界はAchillesの恐怖政治を受け入れるしかないのか? しかもBeanとPetraのembryosがAchillesによって盗まれ、Beanは否が応にもAchillesと対決せざるを得なくなる。勝つのはいったいどちらなのか? 誰もが、Enderならこんなときどうしただろう、と自分に問いかけることで生きている。Enderなら? 敵を理解し、敵を愛し、そうすることで敵を破壊していったEnder. BeanはEnderになることができるのか。
 
 さて、今回の面白さは脇役がさらに深みを増したところにもあるように感じられる。
 AchillesがHegemonyにやってくることを知って逃れたVirlomiは、中国に押されているインドで、密かな抵抗活動を始める。道路に石を積む、ただそれだけの行為がやがて、自由を表すさまざまな言葉で呼ばれるようになるのだ。The Flag of India. The Geat Indian Wall. The Wall of Women. The Wall of Peace.......。
 そしてまた、懐かしいAlai。彼もまた、彼自身の生き方を見つけ、それは世界の動きに大きく関わっている。
 だがなんといっても、やはりWigginsに勝るものはないだろう。なにせおそろしく優秀な三兄弟の両親だ。前作でPeterに自分たちが子どもたちの優秀さを認めていたことを明らかにした彼らは、今回はさらに、Peterと対等な……もしくはそれ以上の会話を交わす。ユーモラスで皮肉の効いた台詞のやりとりは抜群。Hegemon相手にこんなことしていいのか作者、とつっこみたくなるシーンまで(笑)。
 

 それにしても。
 Enderにとって、Peterはいつだって残酷でおそろしい存在であり、殺人者だった。だが一方で、Peterは世界に平和をもたらしたHegemonでもある。そのことの真実が――今回、AchillesとPeterは同じだ、というBeanに、自分は違うというPeterの言葉や行動によって、少しずつ明らかになったように思う。特に後半、VirlomiがPeterの言葉を神からの言葉のように表現するシーンなどは印象的であるし、また、Bean自身がPeterへの態度を変えることで、彼がけっして単なる残酷な殺人者ではないことを告げていたようにも思う。そう考えると、Enderが、このようなPeterと会うことなく旅立ってしまったのは残念なようにも思える――が、「Hegemon」を書くことで、彼もついには兄を理解したと思っていいのだろうか(というわけでもないんだろうなあ……けっこう恐怖感をえんえんひきずってますよね、彼)。
 ところで今回、ちょっとしたネタなんですが、BeanとPetraが自分たちの子どもをどこで育てるか、という会話を交わすシーンで、「あれ?」とちょっと深読みしたくなる場所が。もしやこれ、実はSpeaker for the Deadにも関連させようとか……してるかも?
 ともあれ、存分に楽しめる一冊であることは間違いない。おそらくはこれで一区切りだとは思うのだが、まさかもう一方のEnderシリーズのように、Peterが年をとるまでやったりしない……でしょうね。Beanが死ぬまでとか……まさかね。


おまけ。
どうでもいいことだけど、Ender's Gameの子どもたちのベッドシーンを読むことになる日がくるとは思ってもみませんでした。なんていうか、ほんと「Saga」ですよね(笑)。
嗚呼、でも前回読み足りないといっていたアーライ。もう彼を読めただけで大満足です。今回、かなり重要ポイントだし^^
 


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